「AIエージェント」の実務実装。API未対応システムをPAD×Geminiで突破する設計図

はじめに

課題:来客がある場合は住友不動産が用意する専用サイトにログインしてから入館証を発行する必要があり、その権限は部門長のみに割り当てられている。一方、入館証を発行する際はAPIが用意されていないため、入館証発行操作をブラウザ上で行う必要がある。また、1日単位でしか申請ができないため、定例等で数カ月分の入館証を発行する際は日数分の操作を行う必要があり、手間がかかる単純作業に分類され、非常にストレスがあった。

目的:部門を統括する私としては単純作業に対する心理的ストレスが大きかったため、この単純作業をインテリジェント・オートメーション化することをゴールとした。しかし、これを実現してもROI(投資対効果)は低い。なぜなら1回の操作にかかる時間は数分程度だからである。ただし、単純作業は機械に任せて人間が本来取り組むべきリソースに全振りできる状態を作り上げることが理想と考えるため、単なる秒単位の効率化ではなく、思考のノイズを完全に排除する『論理的聖域』の構築を最優先した。

構築したシステムの全体像

  • Slack:依頼の入り口(UXの統一)
  • PowerAutomateDesktop:ブラウザ操作(既存システムとの橋渡し)
  • GAS×Gemini:完了報告の知的文章の生成

インテリジェントなポイントとして、完了報告を機械的な定型文ではなく、Geminiが文脈を汲み取って生成することで人間味のある報告にした点。

ツール選定の理由

Slack:入館証の発行依頼はSlack上で行っていたが、依頼者によって必要な情報が抜けていたり、誤った来訪日を投稿(タイポ)が散見されたため、依頼内容の標準化やタイピングミスを防ぐ仕組みが必要であった。この問題を解決するために、Slackのワークフローを使って入館証発行用の依頼フォーマットを構築した。

PowerAutomateDesktop(PAD):入館証を発行する際は、住友不動産が提供する専用サイトから操作を行う必要があり、APIは用意されていないため、オートメーション化するにはローカルPCで動作する仕組みが必要であった。PADは自身のPC操作を命令文に従って自動で動かすことが可能である。

GAS×Gemini:Slackワークフローで依頼を受け付けた際に、来訪日等のデータをPADに橋渡しする必要があった。これを解決するために、Slackワークフローから受け付けた依頼はスプレッドシートに連携した。これにより、以下の流れを実現。

  1. Slackから入館証発行依頼データをスプレッドシートに連携
  2. スプレッドシートの内容をPADが読み込んでブラウザ操作(入館証発行)を開始
  3. PADからスプレッドシートに発行完了ステータスを書き込む
  4. GASが発行完了ステータスを読み取ってGeminiに報告文を生成させる
  5. GASからSlack(投稿スレッド)に対して発行完了の報告と完了スタンプを行う

構築/設計における3つの「苦労と突破口」

Slackワークフローのフォーム設計

Slack上でワークフローを構築するのは容易に実現できるが、依頼フォーマットには入館証発行フォーム(ブラウザ側)に必要なデータを意識して依頼フォーマットを設計する必要があった。また、複数日にまたがる依頼、複数人の来訪者を処理するためのルールも定義しないと実務にそぐわない依頼フォーマットになってしまう。この問題を解決するために、何を実現して、何を切り捨てるか明確にしたうえで、依頼フォーマットを設計した。

スプレッドシートのデータ管理設計

Slackワークフローから連携された依頼データをどのように管理したらPADにスムーズに連携できるか?を考える必要があった。スプレッドシートには過去の入館証発行依頼データの履歴管理も行うため、今回の依頼データと履歴データを別シートで管理する方針とした。依頼データと履歴データを1シートで管理した場合、PADが履歴データまで無駄に読み込むことになるため、これを防ぐために分けて管理するようにした。

PADのブラウザ操作設計

PADにはあらかじめブラウザを操作するための機能が用意されているため、操作したい内容に応じてアクションフローを構築していくシンプルなツールである。一方で、入館証発行フォーム(ブラウザ側)の入力順序は、フォーム側のルールに沿って入力するため、人間操作と同じレベルでPADに組み込む必要があった。最も苦労したのが処理速度の問題である。人間がブラウザ上で操作する速度とPAD(機械)が操作する処理速度が違うため、これを考慮してアクションフローを構築した。

導入後の実現した経営的メリット

投資対効果(ROI)

冒頭で説明したとおり、作業時間に対するリターンは大きくないが、依頼者の入力ミスや依頼データの欠如を仕組みによって排除したことで無駄なコミュニケーションパス(確認プロセス)を減らすことができたと考えている。また、完全な自律型AIエージェントまでは行かないまでも、AIを組み合わせたインテリジェントなオートメーション化を実現したことは、社内のAI活用の先駆けとして大きな意味を持つ。

単純作業の心理的負荷の軽減

入館証を発行する権限は社内ルールとして部門長のみに割り当てられているため、単純作業を機械に置き換えたことで「面倒だなぁ」という負の側面を完全に解消できたことは大きな成果である。負の側面は業務のモチベーション、成果に対して目に見えないマイナスをもたらすが、これを排除できたことでよりパフォーマンスを上げられる環境が整ったと考える。

構築スキルの拡張性

今回構築した仕組みは、入館証だけでなく「備品発注」「経費精算」など、社内業務の全てにおいて横展開が可能である。一度構築スキルを身に着けてしまえば、ほぼすべての社内業務をオートメーション化することが可能であるため、作業プロセスは機械に任せて、「結果のみ」を人間が確認する役割に定義することができる。構築スキルを持っている人間がいれば、無駄な作業要員を雇う必要もなくなるため、人件費も抑えることが可能である。

経営者が次に打つべき一手

完璧な自律型AIエージェントを持つのではなく、今あるツールを組み合わせ「インテリジェントな自動化」を始めることは可能である。無駄な作業要員を抱える前に、一度社内の業務を棚卸して、何を機械に任せるべきか、何を人間に任せるべきか一度立ち止まって整理するところから始めて欲しい。

何をどうすれば「インテリジェントな自動化」を実現できるのか分からなければ以下のお問い合わせフォームから相談してほしい。

コメント

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